@歯科医師は本当にリッチマンか?


 昨今では、日本の都市部においては街角の歯科医院の数がコンビニの約2倍はあると言われています。主要都市の駅前や目抜き通りには、歯科医院の看板がずらっと並んでいる光景が目に付きます。これは、一部の地方や郡部を除いて明らかな歯科医療の需給のアンバランスが起こり始め、歯科医院の過当競争を招いている現実を物語っています。さらに、経済の自由競争の原理により、歯科医院の中にも経済面においては勝ち組と負け組みの二極化が進みつつあると思われます。また、昨今の行政改革により社会保険の患者負担率が増加したり、明らかな医療費抑制の政策が行われております。停滞した経済の不況のあおりと共に、歯科界には完全な逆風が吹いております。毎年、歯科の保険点数が大幅に改定されて所得が増加したり、平均的な歯科医師がお金持ちに見えたのは、30年いや40年以上昔で、古き良き時代のように思われます。私も歯科大学を卒業して30年以上経ちますが、昨今の平均的な歯科医師は経済的にはすべてが恵まれている訳では無いと感じております。次に、その理由を考えて見ましょう。
 まず、歯科医師のライセンスを取得するためには、6年生の歯学部を卒業して歯科医師国家試験に合格する必要が有ります。私立の歯科大学であれば、卒業までに最低でも2〜3千万円くらいの学費が必要です。国公立の大学でも、それなりの進学校の高校に行く必要もありますし、進学塾や予備校の経費もかなり必要だと思います。よって、まず歯科医師のライセンスを取得するのに、大多数の先生方は両親から多大な投資を受けていると理解して下さい。そして、何年かの勤務医や大学での研修を経て開業と言う事になります。この時に、親の診療所をそのまま継承する以外は新規開業という事で、また莫大な投資が必要とされます。とにかく、一人前の歯科医師になって独立開業するまでには、多額の投資や借金が必要不可欠なのです。よって、独立開業した歯科医師は、まずは経済的にはマイナスからのスタートと理解して下さい。
 歯科大学や歯学部の学生と言ったら派手なイメージが有るかも知れませんが、私が大阪歯科大学に在籍した昭和50年代で、同級生の中で自分専用のマイカーを持っていた学生はは多分10パーセント以下だったと思います。もちろん、私はオヤジの車を必要な時に頼み込んで借りていた方です。同級生のうち歯科医師の子弟が約半数くらい居たと思います。皆それなりに裕福な家庭の子弟でしたが、入学金が高かったためかあまり小遣いは貰っていなかった様で、アルバイトに精を出す学生も多く居ました。学生時代というものは、お金や地位は無くとも自由気ままで夢があり本当に楽しい時期でした。その頃に、卒業生のOBがクラブ活動の合宿に顔を出した際に乗り付ける高級外車を見ても、自分としては他人事であまり興味がわかなかった記憶があります。
 次に、現在の多くの若手の歯科医師は、開業に際して多くのローンを抱えています。これは、サラリーマンの方の住宅ローンと何ら代わりは無いです。返済出来るまで、延々と続きます。中には、事業が軌道に乗って早めに繰り上げ返済を済ませる先生も居られます。すなわち、これがゼロになってから本当のプラスが始まるのです。またマイナスの状態で、派手な生活や軌道に乗らない事業計画の為に行き詰っている先生も居られると思われます。新しくて立派な歯科医院の外観や従来の既成概念で、本当にリッチかどうかは判断しかねると思いませんか?毎年2千人程度の歯学部の学生が卒業してくるので、本当に飽和状態なのですよ。夜遅くまでや日曜日まで診療する生活が、本当にリッチなのでしょうか?
 私達の大先輩の先生方の中には、芸術やスポーツや学問に精通した魅力的な方が沢山居られました。若手や中堅の色々な意味で余裕の無い歯科医師が束になっても、このような先輩達には到底歯が立ちません。本当にオールドボーイの年配の先生には、個性的で人間としての魅力を兼ね備えた方が多くおいでになります。これは、一体何の差なんだろうと考えてみると、時代背景や歯科医師としての生き様が大きく異なると思います。患者さんや世間の人から尊敬されて愛される歯科医師の先生が、現在の若手の中にどれ程居てるのでしょうか?精神面やライフスタイルが豊かで、皆に愛されている先生が本当のリッチマンでは無いでしょうか?50歳代後半の私は、恥ずかしながら未だ全然リッチマンでは有りません。


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